今では大人の嗜みや趣味として革靴を磨く方も多くいらしゃいます。
林五オンラインストアでレザーケアについてのアドバイザーとして協力いただいている大岡辰徳氏もその道を極めるプロフェッショナルのひとり。単身アメリカにわたり、彼の地で慌ただしいビジネスパーソンの足元を磨く全米最大の靴磨き職人集団「THE SHOESHINE GUILD」の門戸を叩き、唯一の日本人メンバーとなった技術と行動力の持ち主です。
帰国後に立ち上げた「THE SHOESHINE GUILD JAPAN」では、アメリカ流のクイックで美しい靴磨きをベースにした独自のスタイルで多くの革靴愛好家を魅了しています。
ここでは、仕上がりの美しさと革のコンディショニングを兼ね備えた、「THE SHOESHINE GUILD JAPAN」流の靴磨きをご紹介します。
革靴を買ったばかりの方も、靴磨き初心者も、もちろん経験者の方もぜひご一読ください。
※革靴についての一般的なお手入れ情報となります。素材や仕上げは製品ごとに異なるため、お手入れの際には必ずブランドや販売店のアドバイスを受け適切なケアを行ってください。
お手入れの結果生じた色落ちや風合いの変化、革の劣化などについては弊社では一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承くださいますようお願い申し上げます。
日常のお手入れと靴磨きの頻度
屋外で使用するという製品の特性上、革靴には砂埃や土埃が付きやすく、また曲げ伸ばしによりシワが入りやすい革製品です。
革靴を長く大切に履くために大事なのは、ワックスで輝かせることではなく履くたびにおこなう簡単な日常のケア。
普段から少し気を付けておくだけで、革靴へのダメージを抑え長持ちさせることができます。
1. 日常のお手入れ方法
普段気を付けておくポイントは2点。
シューキーパー(シューツリー)を入れて型崩れを防ぐ。
帰宅後は馬毛ブラシでほこりや汚れを払っておく。
これだけで革や靴の負担を軽減し、長持ちさせることができます。
シワが深くなり型崩れが進むと、革の表面にひび割れを生じさせることになり、ほこりが溜まると革の油分を吸収し乾燥の原因となるため、クリームやワックスよりもまずはシューキーパー(シューツリー)と馬毛ブラシを揃えることをおすすめします。
ほんの小さなことなのですが、大切な革靴を長い年月にわたり良い状態で履くためにはとても重要なことなのです。
また、同じ靴を履き続けるより複数の靴をローテーションさせるのもおすすめです。1日履くと、吸収した汗などの水分の放出、乾燥のために2日程度休ませると良いと言われていますので、3足程度をローテーションさせましょう。
まずは、10秒程度で構わないので帰宅後のブラッシングからぜひはじめてみてください。その10秒の積み重ねが10年後のコンディションを変えることになるかもしれません。
2. 革靴のお手入れのタイミング
真夏の灼けたアスファルトや突然のゲリラ豪雨など、革靴は過酷な状況で使用されるため他の革製品以上に革のコンディションを整えておく必要があります。
まったく何もしないよりは年に一度でもお手入れをした方が良いのですが、適切な靴磨きの頻度としては1か月に一度、または10回履いたら一度程度とされています。
また、雨に降られたり乾燥が気になったりした時はもちろん、買ってすぐに履き下ろす前にも「プレメンテナンス」と言われる使用前のお手入れをしておくと良いでしょう。
靴磨きに使用する道具
革靴のお手入れには下記のような道具を使用します。汚れ落としから艶出しまでそれぞれの工程に使用する基本アイテムです。一例として「THE SHOESHINE GUILD JAPAN」の店舗で実際に使用しているものやおすすめの製品をあわせてご紹介します。
馬毛ブラシ
ほこりや汚れを落とすために使用します。柔らかく弾力性があり、高密度に植えられているものが適しています。
馬毛ブラシは革靴に限らず革製品全般のお手入れに使え、デイリーケアにも欠かせません。玄関や下駄箱に常備しておきたい必須アイテムです。
馬毛の長さやコシが程よく、軽くて使いやすい【紗乃織刷毛 馬毛ブラシ】は大岡氏もお気に入りの逸品。
クリーナー(リムーバー)
靴に付いた汚れや古くなったワックスやクリームを取り除きます。メイク前のクレンジングのようにクリームの「化粧乗り」を良くする効果があります。
水性、油性両方の汚れを効果的に落とす【ブートブラック ツーフェイスプラスローション】は、さっと汚れを拭き取ることができます。
皮革用栄養クリーム
革に潤いと艶を与えるレザーケアの主役級アイテム。無色のクリームであればどんな色の革靴にも使用でき、補色効果のある色付きのクリームなら、色褪せた革や小傷のカバーにも適しています。
爽やかな香りとともに潤いをもたらす【M.モウブレイ リッチデリケートクリーム】と栄養補給と補色効果に優れる【サフィールノワール クレム1925】を併用するのが「THE SHOESHINE GUILD JAPAN」流。革のコンディションをきちんと整えながら美しい仕上がりにもこだわります。
ワックス(ポリッシュ)
革の表面を蜜蝋などのワックス成分でコーティングし美しい光沢を与えます。艶を出すだけではなく、耐水性を高め、擦り傷からまもるという実用面での効果も期待できます。
初心者でも扱いやすく本格的な鏡面磨きにも使える【サフィールノワール ビーズワックスポリッシュ】や【ブートブラック ポリッシュ】は靴磨き専門店でもよく使われている実力派。
クロス
クリーナーやクリームの塗布から仕上げ磨きまで様々な用途で使用します。着古したTシャツなど柔らかい布でも代用可能ですので、用途ごとに用意しきれいな面を使用するようにしましょう。 【M.モウブレイ ポリッシングコットン】などが靴磨きには使いやすいサイズです。
豚毛ブラシ
クリームを塗布したあと革に馴染ませ艶を出すために使用します。馬毛よりコシがあり、クリームをしっかりと革に浸透させながら余分なクリームを取り除きます。
大岡氏によると豚毛ブラシは硬すぎるとクリームのワックス成分を取ってしまい、艶を出すのが難しくなるため、毛質の安定したある程度品質の高いものを選んだ方が使いやすく、結果コストパフォーマンスが良いとのこと。【サフィールノワール ブリストルポリッシングブラシ】は程よい硬さと密度、持ちやすいサイズで【サフィールノワール クレム1925】との相性も抜群。
着色力のある色付きクリームを使用する場合は、色移りを防ぐために「黒色用」「茶色用」「無色用」などのようにクリームや靴の色ごとにブラシを揃えておくのがベターです。
山羊毛ブラシ
必ずしも必要なブラシではありませんが、細くて柔らかい山羊毛は鏡面磨きやコードバンの仕上げ磨きに適しています。
【ブートブラック フィニッシングブラシ】は、高級化粧筆として有名な熊野筆の技法で作られた仕上げ磨きに特化したブラシで、繊細な山羊の産毛と馬の尾先をブレンドした絶妙な柔らかさと弾力を持ち、優しいタッチが特徴です。
靴磨きの手順
お手入れを始める前に、まずは靴紐を解き外しておきます。
ライニング(内側、裏地)のお手入れをする時以外はシューキーパーを入れておき、履き皺を伸ばしておきましょう。
1. 馬毛ブラシでブラッシング
はじめは、鞄や財布などほかの革製品と同じくブラッシングから。靴に付いたほこりや汚れを馬毛ブラシで払っておきます。コバとアッパーの間や、メダリオンと呼ばれる穴飾りなどには砂埃が溜まりやすいので忘れずにブラッシングしておきましょう。
2. クリーナーで汚れ落とし
革靴に汚れが残ったままではクリームの乗りも悪く本来の効果を発揮する事ができません。クリームの栄養効果を最大限に引き出すため、クリーナーを使用して革表面の汚れや古くなったワックス、クリームを落としておきます。
クロスに少量とり、決して力を入れて擦らず撫でるように全体を拭き上げます。クリーナーやクリームは必ず目立たない所で試してから全体に使用してください。
3. クリームはデリケートクリームから
革の種類や状態によっては油分の多いクリームを塗ると、油分を一気に吸収しシミやムラになることがあります。これを防ぐために、まず【M.モウブレイ リッチデリケートクリーム】を塗って潤いを行き渡らせておきます。水分量の多いデリケートクリームを先に浸透させておくことで次に塗るクリームの油分の急激な浸透を防ぐことができるのです。
デリケートクリームは無色でワックス成分を含まず、靴のライニングに用いられるヌメ革などにも使用できます。
乾燥が進んでいるなど革の状態によってはデリケートクリームの代わりに【ブートブラック リッチモイスチャー】を使用することも。希少なオーガニックアルガンオイルを配合し、よりしっとりと保湿することができます。
柔軟性を与えるため、甲の履きジワから塗り進めていきましょう。
4. 栄養補給で革のコンディションを整える
次に、革に必要な油分と光沢を出すためのワックス成分を補給します。
デリケートクリームを塗り軽くブラッシングして馴染ませたら、【サフィールノワール クレム1925】などの革靴用クリームを塗り込みます。クロスやペネトレイトブラシにとって塗れば手が汚れにくく、指で塗ればクレム1925を体温で温めながら浸透させやすくなります。
クレム1925は、「乳化性」が一般的な靴クリームの中では珍しい「油性」のクリーム。水分を含まないため成分の栄養補給効果を最大限に発揮させることができます。ただし、油分が多いために浸透には少し時間を要します。大岡氏は「ここが実は大切なポイントで、十分に浸透していないうちにブラシをかけると、油分やワックスといったクリームの “おいしい部分” をブラシで取ってしまい効果が半減してしまうのです。」と言います。慌てずにパッケージにも書かれてある通り5分間待ちましょう。その間に油分はゆっくりと革に浸透し、ワックス成分だけが表面にとどまります。
時間を有効活用するために、浸透を待っている間にライニングやレザーソールのお手入れをしておくのも良いでしょう。
5. ブラッシングで浸透、磨き上げ
クリームをさらに革の内部にまで馴染ませるため豚毛ブラシでブラッシングします。お好みで馬毛ブラシを使用しても良いでしょう。その場合、ほこり落としに使用するブラシとは別のブラシを用意して用途ごとに分けておきましょう。
肩の力を抜いて素早く様々な方向からブラシをかけ、クリームを浸透させながら余分なクリームを取り除いていきます。皺の多い部分やシボのあるグレインレザーの場合はクリームが残りやすいので特に入念にブラシをかけていきましょう。ブラッシングによって表面のワックスが徐々に均され艶が出てきます。
6. 乾拭きで余分なクリームを取り除く
クリームが残ったままではべたつきの原因となり、ほこりを吸着しやすくなります。ブラッシング後、表面に残ったクリームを取り除くため丁寧に乾拭きします。クロスのきれいな面を使い磨き上げていきましょう。しっかりと乾拭きしておくと艶が長持ちします。
7. ワックスでさらに艶出しと保護
普段のお手入れではここまでで十分ですが、さらに艶を出したい場合は革靴用の固形ワックスで仕上げます。
【サフィールノワール ビーズワックスポリッシュ】などの革靴用ワックスをつま先や踵など革の硬い部分を中心に何度か塗り伸ばし、柔らかいクロスで磨き上げます。硬化したワックスを磨くことで光沢を出しますが、ワックスが硬く固まった状態で曲げ伸ばしをすると革にひび割れなどが生じることがありますので、靴全体に使用する場合は薄く少量だけ使用しましょう。
ハイシャインやミラーシャインとも呼ばれる鏡面磨きは、ワックスを何層にも重ねて文字通り鏡のように輝く光沢を出す技術ですが、これについては改めてご紹介します。
8. 仕上げに乾拭き
最後に乾拭きをしてできあがりです。クロスのきれいな面を使用して磨き上げましょう。
細く柔らかい山羊毛を使用したブラシも仕上げの磨き上げに適したアイテム。鏡面磨きを施した美しい表面にもブラシ跡が残らないほどの柔らかさで、コードバンの仕上げ磨きにもおすすめです。
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レザーソール、コバのお手入れ
靴底はレザーソール(革底)に限るという革靴愛好家は多いのでは?
雨にも弱く滑りやすいというデメリットを持ちながらも長く愛されるレザーソール。アッパーとともに経年変化を見せる革という素材自体の魅力もさることながら、丈夫で通気性が良く蒸れにくいという実用性も積極的にレザーソールを選ぶ理由かもしれません。
レザーソールは意外と耐久性も高く長く使えるのですが、やはり革なのでアッパーと同じく定期的なお手入れが必要です。
特に雨の日に履いた場合は、乾かすときにレザーソール内部に浸透した水分が油分とともに乾燥しますので、硬化や劣化を防ぐためにきちんとメンテナンスしておきましょう。
レザーソールのお手入れ方法
【ブートブラック レザーソールコンディショナー】など革底専用のアイテムを使うのが手軽で機能的なのでおすすめです。ミンクオイルを使用するなど代替の製品や方法もありますが、他のクリームを使用する場合はワックス成分を含むものを避けてください。ソール表面にワックスの被膜ができ、滑ってしまう原因となります。
はじめにブラシなどでソールに付いた砂などを落としてから、コンディショナーを適量塗り込みます。乾拭きしてからしばらく乾燥させておきます。
浸透するまではべたついたり滑りやすくなったりするため履く直前の使用は避け、また、ソールが濡れている時は陰干しして完全に乾かしてからお手入れしましょう。
コバのお手入れ方法
レザーソールの側面をコバを呼びますが、ここは靴の外側に位置するためどうしてもダメージを受けやすく、傷や色剥げなどが生じることがあります。
傷が付き毛羽立っている場合は、細目のサンドペーパー(400番程度)で表面を整えておくと仕上がりも滑らかで美しくなります。やすり掛けのあとはブラシなどでよく払い落としておきます。
表面をきれいにしたらコバ専用の着色料「コバインク(コバインキ)」を塗り補色します。
ペンタイプの【サフィール エッジ&ヒールレストアラー】は、業務用のコバインクを簡単に使用できるように開発されたもので、本格的なケアができながらとても手軽。ボトルの転倒による液こぼれなどのリスクもなく、「THE SHOESHINE GUILD JAPAN」でも出張靴磨きの際にはボトルタイプではなくこちらを使用するそう。
塗ったあとは10分程度乾燥させておき、仕上げに乾拭きすると艶が出て靴全体が引き締まります。
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記事監修:
大岡辰徳 / THE SHOESHINE GUILD JAPAN代表
徳島県出身。西日本初の靴磨き専門店の責任者を経て、2018年単身渡米。アメリカ最大の靴磨き職人集団「THE SHOESHINE GUILD」のもとで修業しアメリカ流靴磨きを習得。唯一の日本人メンバーとなり、帰国後アメリカ国外では初となる「THE SHOESHINE GUILD」を冠した靴磨き専門店を大阪にオープン。2023年には古巣である「Burnish」の経営も担うことに。
靴磨きの技術のみならずバイタリティ溢れる行動力にも注目が集まり、靴磨き職人として初めて中学校の教科書に掲載されるなど、活躍の場を多方面に拡げている。
Instagram: @the_shoeshineguild_japan
THE SHOESHINE GUILD JAPAN: https://www.the-shoeshineguild-japan.com/
Burnish: https://shoeshine-burnish.com/
革靴ジャーナルにて、TENACEシリーズのトートバッグを取扱いただきました。
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